以前、官報情報検索サービス[https://search.npb.go.jp/]で「中ノ鳥島」を検索してみたときのことである。法令文中に中ノ鳥島が出てくることは予想通りだったのだが、ひとつ、予想もしなかったものが引っかかってきた。1960年(昭和35)3月19日付で出された次の航路告示である。
1960年3月19日付海上保安庁告示(航)第11号(『官報』第9971号掲載)、35年401項
(2) 海図840号〔34-742〕
南方諸島小笠原群島、父島の東北東方約 700M [引用者註:海里、約1300km](30°48′N., 154°24′E. 概位)に図載の危険界線をめぐらした島嶼記号および同北側至近に図載の危険界線をめぐらした暗岩記号を付記の島名「中ノ鳥島」および“(E.D.)”と共に各削除する。
(出所 水路部)
航路告示は海図などの補足・訂正情報として出される航海安全情報で、その呼称は水路報告(1879年)→水路告示(1886年)→航路告示(1949年)→水路通報(1961年)と変わっている。現在ではインターネット上での配信[http://www1.kaiho.mlit.go.jp/TUHO/tuho_db/tuhoserch.html]が中心となっているが、1883年(明治16)から1973年(昭和48)までは『官報』にも掲載されていた。
中ノ鳥島が1946年(昭和21)11月22日付の水路告示第46号(昭和21年296項)で海図から削除された、という話は再三述べてきた通りなのだが、これでは、それから14年後の1960年になってもう一回削除されている、ということになってしまう。
これはどういうことなのか、というと……ヒントは「海図840号」というところにある。この海図は「印度洋」。現行の海図では W840 「インド洋」にあたる。
1946年の水路告示で「中ノ鳥島」を削除することが指定されたのは、9つの海図(48号「南方諸島」、1006号「本州東部及北海道」、1007号「本洲東部・北海道及樺太」、2101号「東京海湾至トラック諸島」、800号「太平洋北西部」、825号「日本至ハワイ諸島」、1号「日本総部及附近諸海」、838号「太平洋北部」、809号「太平洋」)と3つの水路書誌(1号A『本洲沿岸水路誌』、50号『大洋航路誌』、220号『普通水路図誌目録』)である。つまり、このとき840号は指定から漏れていたことになる。「印度洋」という図名からするとあまり関係ないように見えるかもしれないが、この海図の範囲には日本の南方海域、つまり中ノ鳥島があることになっていた海域も含まれている。
要するに、1946年の削除指示に際して漏れがあり、1種類の海図だけ、1960年まで中ノ鳥島が残っていた、ということになる。1972年(昭和47)まで海図に生き残っていたロス・ジャルディン諸島には劣るものの、なかなかしぶといと言うべきだろう。