2007年07月19日

中ノ鳥島のリン鉱試掘鉱区

 久々に中ノ鳥島についての新知見を得たので、少し記しておく。(なんの話かわからない方は、中ノ鳥島(その1)〜(その4)を参照のこと。)

 1913年に中ノ鳥島探検隊を派遣した平尾幸太郎は、農商務省(現在の農水省と経産省の前身)から正式に中ノ鳥島のリン鉱(グアノ)試掘権を得ていた、という新聞報道が以前から気になっていた。当時の鉱業法(明治38年法律第45号。現在の同名の法律はこれを全面改正したもの)では、リン鉱山は農商務省の管轄とされており、その試掘にあたっては各地の鉱山監督署長に届け出ることが義務づけられていたのである(第21条)。
 中ノ鳥島は小笠原島に属することになっていたので、東京鉱山監督署(現在の経済産業省原子力安全・保安院関東東北産業保安監督部の前身)の管轄となる。そこで、東京鉱山監督署に関する資料にあたってみたところ、中ノ鳥島のリン鉱試掘許可が実際に出されていたことが判明したのである。

(1)1908年12月 山田禎三郎(ほか2名)

登録番号 東京試登録第4号
鉱区所在地 小笠原島中ノ鳥島地内
鉱種 燐
面積 635,670坪
鉱業権者 山田禎三郎 外2名
住所 東京市小石川区諏訪町
登録年月日 明治41年(1908)12月4日

典拠:『官報』第7643号(1908年12月16日付)、『東京鉱山監督署 鉱業概覧 第一次(明治四十二年)』(東京鉱山監督署、1910年、国立国会図書館近代デジタルライブラリー所収)。

 最初に許可を得たのは、発見届の提出者である山田禎三郎自身であった。「外2名」が何者かは不明。63万5670坪という妙に具体的な数字がいったいどこから出てきたのかも不明である。
 当時の鉱業法では、試掘権の存続期間は登録の日から2年間とされていた(第18条)。これに従い、この試掘権は2年後の1910年(明治43)12月に自動失効となったようである。

(2)1911年1月 内田真

登録番号 東京試登録第8号
鉱区所在地 小笠原島中ノ鳥島
鉱種 燐
面積 635,670坪
鉱業権者 内田眞
住所 東京市芝区南佐久間町
登録年月日 明治44年(1911)1月

典拠:東京鉱山監督署〔編〕『東京鉱山監督署管内鉱区一覧(明治四十五年七月一日現在)』(東京鉱山監督署、1912年)。

 この試掘届については『官報』では確認できなかった(見落としの可能性もあるが)。
 この「内田真」が、平尾幸太郎の前に試掘権を持っており、詐欺取財容疑で投獄されたという「内田某」であろう。この男が何者かはよくわからないが、先に見た『東京鉱山監督署 鉱業概覧 第一次(明治四十二年)』によれば、1908年(明治41)7月に鳥島のリン鉱試掘権を得ている。
 この試掘権も、2年後に自動失効となったようである。

(3)1913年11月 平尾幸太郎(ほか1名)

登録番号 東京試登録第14号
鉱区所在地 小笠原島中ノ鳥島
鉱種 燐
面積 708,500坪
鉱業権者 平尾幸太郎 外1名
住所 大阪市北区曽根崎
登録年月日 大正2年(1913)11月14日

典拠:『官報』第405号(1913年12月3日発行)、東京鉱山監督署〔編〕『東京鉱山監督署管内鉱区一覧(大正三年七月一日現在)』(東京鉱山監督署、1914年)。なお、『東京鉱山監督署管内鉱区一覧(大正四年七月一日現在)』(東京鑛山監督署、1915年)では、平尾の単独名義となっている。

 平尾幸太郎の試掘許可。実際に登録がなされたのは吉岡丸を派遣する直前だったことがわかる。「外1名」とは、新聞報道に登場する松井淳平であろうか。面積が1割ほど増えているが、その理由は不明。
 この試掘権も、2年後に自動失効となったようである。

 これ以降についてはまだ細かい確認はしていないのだが、島自体が見つからないというのに、届け出る人間があったとは思えない。
 なお、届け出にあたっては、当然、図面などが東京鉱山監督署に提出されているはずなのだが、あいにくこの時期の書類は関東大震災によりほとんど焼失してしまったらしい。残念。
posted by 長谷川@望夢楼 at 01:02| Comment(2) | TrackBack(0) | 中ノ鳥島 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして。
国会図書館のデジタルライブラリーを閲覧中に東京の試掘鉱区について気になり調べたところ、こちらのサイトに行きつきました。
約10年前の記事にコメントするのもどうかと思いましたが、折角なのでさせて頂きます(笑)

(2)内田真 の試掘鉱区について、官報だと1911年1月18日14頁に記載されていました!上段右から3件目です!HPアドレス欄に該当箇所のURLを貼っておきます!

以上です!突然失礼いたしましたm(__)m
他の記事も拝見しますね!
Posted by Q at 2017年01月05日 15:31
御教示どうもありがとうございました。お返事遅くなってしまい申し訳ありません。
当時は『官報』は図書館でマイクロフィルムで見るしかなく(国会図書館議会官庁資料室には冊子体であったけど)、探すのが大変だったので、見落としがあるんじゃないかなぁ、と思ってましたが、やっぱり見落としてましたか。そういえば『東京鉱山監督署管内鉱区一覧』も、このころはやっぱりマイクロフィルムでしたね。
Posted by 長谷川亮一@望夢楼 at 2017年01月19日 17:38
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