2017年01月19日

『郷友』誌掲載の奇怪な講演録(1)はじめに

 以前、教育勅語関係の文献を探して、右翼的な旧軍人団体として知られる日本郷友(ごうゆう)連盟の機関誌『郷友』を見ていたときのことである。次のような記事が目にとまった。

  • 三上照夫「講演要旨 大東亜(太平洋)戦争は日本が仕掛けた侵略戦争か」『郷友』第35巻第1号通巻第407号(東京:日本郷友連盟、1989年1月1日発行)28〜45頁。

 末尾に「(註)歩一〇四記念講演特集号より転載」(45頁)とあるので、歩兵第104連隊(仙台)の戦友会誌からの転載と思われる。また、「(六三・九・二一)」(45頁)ともあるので、そのまま受け取れば1988年(昭和63年)9月21日に行われた講演を文章に起こしたもの、ということになる。ただし、「昭和三年」(1928年)生まれだという講師が「現在五八歳」(45頁)と語っていることや、1986年に起きた来島どっく(現・新来島どっく)の経営危機が現在進行中の出来事として言及されていること、言及される内閣が中曽根康弘内閣までで、竹下登内閣(1987年11月発足)への言及がないことなどから、実際は1988年ではなく1986年(昭和61年)の講演だと思われる。

 三上照夫という人物は、この講演において、題名の通り「大東亜戦争は侵略戦争ではなかった」と主張している。内容的には、パル判事のいわゆる「日本無罪論」、真珠湾事件=アメリカ側陰謀説、盧溝橋事件=中国共産党陰謀説などを組み合わせたもので、1980年代当時としてもそれほど目新しいものではない(なお、南京事件や従軍慰安婦への言及はない)。何がひどいかといって、この講演、細部の事実関係がことごとくデタラメで、客観的に正しいことが述べられている箇所を見つけるほうが大変なのである。「細部の」というのは、全体的にはどこかで聞いたような話なのだが、細かいところにとんでもないウソが仕組まれている、という仕掛けになっているからである。もちろん、講演録なので講師がつい口をすべらせて話をふくらませた、というこもあるだろうし、べつに専門家のチェックを受けたわけでもないのだろうが、それにしてもひどい。

 雑誌の性格が性格とはいえ、よくもまあこんなバカバカしい講演録を載せたものだ、などと思いつつ、念のため「歩一〇四記念講演特集号」をウェブ検索してみて唖然とした。この講演を真に受けた文章が、ウェブ上に結構転がっているのである。それだけではない。この講演録には、《マッカーサーは昭和天皇との第一回会見で天皇に心服し、本国からの対日食料援助を引き出すために日本の総人口を水増しして本国に報告、それがバレて総司令官を罷免された》という荒唐無稽な話が出てくる。マッカーサー解任の時期からしてもありえない話なのだが、この話を真に受けているウェブサイトやブログもかなりあるようなのだ。他にも、《昭和天皇が戦後巡幸で最初に訪れたのは広島》(本当は神奈川県)といった、本記事が出典らしいデタラメを書いているウェブサイトがある。

 もちろん、影響力といっても限られたものではあるのだろう(と思いたい)が、ウソだ、と明言しておく意味はあるかもしれない。というわけで、この講演録の内容を検証しつつ紹介してみる次第である。

第2回につづく)

posted by 長谷川@望夢楼 at 17:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 疑似科学・懐疑論・トンデモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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