簡単にいえば、第一次世界大戦前に存在した万国規格統一協会(ISA)が、第二次世界大戦の勃発により機能停止に追い込まれた後、1944年に連合国が UNSCC (United Nations Standards Coordinating Committee)を設立、1947年、 ISA と UNSCC が統合されて ISO となる、というのが大まかな流れなのだが……。
さて、問題はこの UNSCC である。ほとんどの日本語文献は、この団体を「国際連合規格調整委員会」もしくは「国連規格調整員会」と訳している(たとえば飯塚幸三〔監修〕『世界の規格便覧 第1巻 国際編』日本規格協会、2005年、257頁)。
確かに、 United Nations とあるのだから「国際連合」と訳したくはなる。しかし、 UNSCC の設立年は1944年である。国際連合(United Nations)の設立は1945年10月24日。国連憲章の起草を行ったサンフランシスコ会議の開会にさかのぼっても1945年4月。つまり、 UNSCC 設立の時点では、「国際連合」はまだ存在しないのだ。
1944年の時点で “United Nations” とあったら、ふつうは「連合国」を指す。したがって UNSCC は「国際連合規格調整委員会」ではなく「連合国規格調整委員会」と訳すのが正しいのではないか?
(ちなみに、「国際連盟規格調整委員会」と訳した文献もあるのだが[喜多尾憲助「ISOおよびIECの最近の活動」『日本原子力学会誌』第42巻第10号、2000年。 doi:10.3327/jaesj.42.1000]、これでは間違いの上塗りである。)
……ということにしてみたのだが、一難去ってまた一難。こんどは ISA の正式な設立年がわからない。
たいていの事典類には1926年設立とあるし、だいいち、 ISO の公式ウェブサイトに掲載されている「The ISO story」に、はっきり1926年設立と書かれている[http://www.iso.org/iso/about/the_iso_story/iso_story_founding.htm]。ところが、通商産業省〔編〕『商工政策史』第9巻(商工政策史刊行会、1961年)によると、じつは1926年の時点では「会則の整理と細則等を議決」しているのだが、「ほかの国際団体との協力問題に関する意見が一致しなかつたので、協会の設立を具体化する時期についてはなお考慮することとし」たという(p. 220)。で、正式な発足は1928年10月なのだという。つまり、会則の決定と正式な発足との間に2年のズレがあるらしい。
……と、こういう細かいことばかり気にしているから、肝心の「ISA という国際組織が第一次世界大戦後という時期に設立されたことの意味」という話をきちんと盛り込むのを、うっかり忘れていたりするのである。