2006年03月05日

「アインシュタインの予言」?

http://deutsch.c.u-tokyo.ac.jp/~nakazawa/others/einstein.htm
中澤英雄「アインシュタインと日本」(『致知』2005年11月号)

 ぼくは全く知らなかったのだが、「アインシュタインは『万世一系の天皇を戴く日本がいずれ世界の盟主となるであろう』と予言した」という話が一部で流布しているらしい。谷口雅春とか清水馨八郎とか名越二荒之助とかいった、ある意味で錚々たる面々がこの話を随所で紹介している由である。これは明らかに「八紘一宇」論であり、常識的に考えても、アインシュタインが本当にこんなことを言ったとはまず思えないのだが。
 で、この「予言」の来歴を丹念に追ったのが、独文学者の中澤英雄氏(東京大学)の上記の文章。中澤氏は、「どこにも確固たる典拠がない」「内容がアインシュタインの思想と矛盾する」という二点から、この「予言」を虚構だと断定している。中澤氏によれば、この「予言」のそもそもの出もとは、なんと「八紘一宇」の言いだしっぺである田中智学(巴之助、1861-1939)その人なのだそうである。
 この偽「予言」が、「アインシュタインという外国の偉い学者が日本のことを褒めている」という理由で広まったことはまず間違いないところだろう。それにしても、孫引きの怖さをつくづく思い知らされる話である。出所不明の文章はうかつに信じるな、必ず一次史料に遡って確認せよ――まあ、鉄則中の鉄則ではあるのだが。
posted by 長谷川@望夢楼 at 07:06| Comment(8) | TrackBack(2) | 偽書・偽文書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>出所不明の文章はうかつに信じるな、必ず一次>史料に遡って確認せよ――まあ、鉄則中の鉄則>ではあるのだが。

ですよね、確かに。

http://ameblo.jp/disclo/entry-10013327332.html
どっちがホントなんでしょか???
Posted by 七 at 2006年06月08日 22:59
初出誌が『改造』ってだけで、巻号数どころか正確な年代すらも不明確なんじゃ、反論としては失格、論外ですね(そもそもこの方、中澤氏の結論だけを紹介した『朝日新聞』の記事を見ただけで、当の中澤氏の論文は読んでないんじゃないかな)。『改造』は戦前のメジャー総合誌ですし、総目次も刊行されていますので確認は容易なはず。ぜひ正確な巻号数を明示して中澤氏に反論していただきたいものです。
Posted by 長谷川@望夢楼 at 2006年06月09日 01:37
なお、補足しておくと、中澤氏は『改造』にアインシュタインの文章が載っていることを否定しているわけではなく、『改造』に掲載されたアインシュタインの文章には、問題の「予言」にあたる文面は見当たらない、と主張しているわけです。『改造』にアインシュタインの文章が出ている、ってだけじゃ反論にも何にもならないので、念のため。
Posted by 長谷川@望夢楼 at 2006年06月09日 01:48
『改造』掲載論文については、こちらの blog で詳しい考証がなされていますが、やはり該当記事は見つからないようです。(ぼくもチェックしようかとも思ったんだが、近場の図書館にはこの頃の『改造』は所蔵してないんだよなあ。)
アインシュタインの予言について
http://alberteinstein.seesaa.net/
Posted by 長谷川@望夢楼 at 2006年06月18日 10:10
まあ捏造でしょうね。
この言葉は
Posted by とびた at 2007年03月02日 18:56
アインシュタインの予言のほうにも、
コメントくださって、まことにありがとうございます。

長谷川さまを全面的に信用して、書き直しておきましたよ。
(書いていることを削るぶんには、内容的なまちがいは、
入らないですから、そのまま信用しても問題はないでしょう。)
http://taraxacum.hp.infoseek.co.jp/teardrops/pseudo/einstein.html
Posted by たんぽぽ at 2007年10月11日 01:41
この伝説は時々聞くので、今回、国会図書館あたりで改造を調べるかと思ったのですが、もうすでにされた人がいたようですね。さすが。
それで話は終わりですが、発言を肯定される方が「いい話だからほっておけばいい」旨書かれていました。
ある意味、これが多くの人が歴史について考えていることかも知れなず色々考えさせら得れます(もちろん、簡単に肯定は出来ませんが。)
Posted by カスパー at 2010年01月16日 09:33
 一月中は多忙だったためお返事が遅れてしまいました。申し訳ありません。
 私は、金子務氏の労作『アインシュタイン・ショック』(岩波現代文庫、2005年。初版は1981年)にこの話が言及されていない、ということを確認した時点でやる気をなくしてしまいました(中澤英雄氏のもとに寄せられた投稿によれば、金子氏も「予言」の存在をはっきり否定したという。 http://www.yorozubp.com/0506/050626.htm)。
>「いい話だからほっておけばいい」
 こういう主張をする人にとって、「歴史」というのは「歴史物語」にすぎないのではないかと思います。
Posted by 長谷川@望夢楼 at 2010年02月03日 22:59
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

アインシュタインの予言(2)
Excerpt: 「疑似科学の部屋」に、「アインシュタインの予言」を加える。
Weblog: たんぽぽのなみだ~運営日誌
Tracked: 2007-09-16 02:01


Excerpt: アインシュタインの予言アインシュタインの予言(アインシュタインのよげん)とは、アルベルト・アインシュタイン(1879年 - 1955年)の発言として流布されている約300文字程度の言葉。近代日本の驚く..
Weblog: むべなるかな都市伝説
Tracked: 2008-02-16 09:40
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。