2022年04月11日

仙石和道『大熊信行と凍土社の地域文化運動――歌誌『まるめら』の在地的展開を巡って』(論創社)について

たいへんお久しぶりです。長谷川です。ご無沙汰して申し訳ありません。

この度、瀬畑源君をはじめ友人一同とともに、亡友・仙石和道君(1974〜2019)の遺稿『大熊信行と凍土社の地域文化運動――歌誌『まるめら』の在地的展開を巡って』(論創社、2022年4月、288頁、3000円+税)を出版することになりました。4月12日発売の予定です。

大熊信行と凍土社の地域文化運動論創社
仙石和道 著/瀬畑源 編集代表/今井勇、小野寺茂、長谷川亮一、村松玄太 編集
ISBN 978-4-8460-2153-5

序にかえて――仙石和道君の大熊信行研究について 池田元
序章 研究の課題と方法
第一章 高岡高等商業学校時代の大熊信行――歌誌『まるめら』における在地的展開を中心として
第二章 『越後タイムス』における地域文化運動――土田秀雄を中心として
第三章 土田秀雄の地域文化運動――短歌運動を支えた人々を巡って
第四章 歌誌『まるめら』における在地的展開――凍土社と柏崎ペンクラブを巡って
第五章 大日本言論報国会時代の大熊信行――雑誌『公論』を巡って
第六章 戦後の柏崎図書館運動――歌誌『まるめら』の終焉から戦後の復興を巡って
終章
「あとがきにかえて」
編集代表あとがき 瀬畑源

仙石君が博士学位請求論文(未提出)として執筆していたもので、内容的にはほぼ完成していたのですが、そのままの形での出版には若干の難があったため、瀬畑君らが中心となって、誤記の修正や出典の再確認等を行い、大熊信行となじみの深い論創社から出版していただくことになったものです。いわゆる遺稿集という形ではなく、あくまで学術書としての出版になります。

本書は仙石君が2006年から2015年にかけて執筆した論文をもとに、学位請求論文として再構成したものです――が、ここまで書けていたならあと1〜2年は早く提出できてたんじゃないか、さすがにちょっと時間かけすぎだろう、いまさら言っても詮無いけどさ、という文句が思い浮かばなくもありません(遅筆という点では私も他人のことは言えなのだけれど)。

主題は、仙石君が長きにわたって研究を重ねていた経済学者・歌人の大熊信行(1893〜1977)ですが、大熊個人の思想に焦点を当てたものというよりは、大熊が主宰した歌誌『まるめら』(1927〜41、ただし大熊の関与は1938年まで)と、高岡(富山県)や柏崎(新潟県)などにおける地域文化活動との接点が主題となっています。大熊は歌人としては口語・非定型(自由律)の独自の短歌理論を提唱していますが、それが地域の短歌活動に強い影響と、一方で反発をもたらしたことは、本書で詳細に論述されています。また、タイトルにある「凍土社」(1927〜37頃)は、大熊の小樽商業高等学校時代の教え子であった、柏崎商業学校教諭の土田秀雄(1901〜62)が設立した短歌(和歌)結社。その関連もあり、大熊とは接点のない土地の同人でありながら、大熊と『まるめら』から強い影響を受けていたことを、仙石君は執念深い資料収集をもとに、細かく論証していきます。

もっとも、仙石君のもともとの問題関心は、知識人と戦争責任をめぐる問題にあったはずで――そのことは、「あとがきにかえて」として収録された『越後タイムス』掲載のエッセイに触れられている――、その点からいえばかなりの遠回りをした感も否めません。本来なら、ここでひとまとめをしたうえで、ここから大熊の短歌運動と大熊自身の思想との関わりについての議論へと進むところだったのでしょうが、それはついに果たされずに終わってしまいました。

本書は大熊信行のオーガナイザーとしての側面に光を当てたものですが、仙石君もまたオーガナイザーでした。我々編者一同と仙石君との関係については、編者代表である瀬畑君が「あとがき」で触れていますが、彼は一橋大の吉田裕ゼミや明治大の山田朗ゼミ、後藤総一郎ゼミなどに他大学から参加し、修士課程在籍中の2001年頃から、知り合いの院生たちに声をかけて独自の勉強会を立ち上げており、千葉大修士課程在籍中だった私にも参加を呼びかけてきました。私は千葉大の学部生だったころ、『世界』(第656号、1998年12月)掲載の座談会「大学生は『戦争論』をこう読んだ」に参加したことがあり、その件で彼から一度メールをもらったことがあったのです。その後、彼は2002年に図書館情報大学の大学院博士後期課程に進学するのですが(2004年に筑波大に統合)、そこで大熊信行の研究者である池田元先生(筑波大学教授=当時、現・名誉教授)と知り合い、2004年から2007年にかけて「時代思想の会」という研究会を定期的に開いていました。編者一同は仙石君に半ばかき集められるような形で、この「時代思想の会」に参加することになったのです。なお、このときに彼から、戦時中の総合雑誌『公論』の共同研究を持ちかけられたこともあります。軍国主義を鼓舞した雑誌として知られながら、国会図書館にもきちんと揃っていないので、バックナンバーを探して現物に当たってみたのですが、結局、仙石君は「大日本言論報国会時代の大熊信行――雑誌『公論』を巡る一考察」(『出版研究』第37号、日本出版学会、2006年) https://doi.org/10.24756/jshuppan.37.0_165 (本書第5章)をまとめたものの、私のほうは特に何の成果も出していないことが、今となっては心残りとなっています。

思うところは色々あるのですが、本書の紹介としてはひとまずこのくらいで筆を置くことにしましょう。
posted by 長谷川@望夢楼 at 03:41| Comment(1) | 歴史学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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